ラリと
梭の音
トントン カラリと
梭の音

矢車草の 咲く村で
糸より細いと思やんせ

トントン トロリと
唄の朝
トントン トロリと
唄の朝。


[#1字下げ]裏戸の音[#「裏戸の音」は中見出し]

夜の夜中に
裏戸を叩く

ことんことんと
ときたま叩く

今夜来るとの
たよりはないが

可愛男じや
ないか知ら。


[#1字下げ]甚吾さん[#「甚吾さん」は中見出し]

枝垂れ 柳の
謎ばかりかける

わたしや 恥かし
甚吾さんの謎が

何んで 解かれませう
甚吾さんの謎を

あれさ 甚吾さんよ
かけずにお呉れ


[#1字下げ]夢[#「夢」は中見出し]

昨夜《ゆうべ》 夢見た
喜蔵さんの夢を

ゆかし なつかし
一晩中見てた

去年 喜蔵さんに
手の甲 引つかかれた

うつら うつらと
その夢を見てた


[#1字下げ]胸の糸[#「胸の糸」は中見出し]

妻となり 妻と云はれて
年月を
すごして来たに
なぜか知ら

今日も 解けない
胸の糸
誰かに引かれて
ゐるのだろ

机の下に 紫の
インキで書いた
用箋が
二つに裂かれて落ちてゐた

誰に たよりを
出しただろ
誰に たよ
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