い》でて踏み玉へ
踏めば緑の若草に
ああ春の香《か》は深からむ


[#1字下げ]悲劇[#「悲劇」は中見出し]

[#ここから3字下げ]
[#ここから20字詰め]
安鎮清姫日高川の絵を見てそぞろに恋の悲劇を思ふ
[#ここで字詰め終わり]
[#ここで字下げ終わり]

夕《ゆふべ》は萌ゆる恋草の
あしたは消ゆる花の露
夜《よ》は美しき墨染の
絹紅《もみ》の裳裾《もすそ》の身ぞつらき

君よゆかしき紫の
ゆかりに結べ袖と袖
蝶よ花よと父母《ちちはは》の
膝にすがるは恥かしき

恋の悲劇は玉の緒の
総ての罪の終りなり
罪の終りはうたかたの
日高の川の涙なり

逢《あい》はせぬかよ
この川すそで
一夜《ひとよ》どまりは桜の花よ
花のやうなる旅の僧


[#1字下げ]夜より朝への海[#「夜より朝への海」は中見出し]

泡立つ海の輝くは
ああ太陽《あまつひ》の照すなり
宝の沈む夜の海は
人に想《おもひ》をいたましむ

ぬぐふが如き白銀《しろがね》の
月の光は玉を綴り
繊雲《ほそくも》遠くあかねさして
平和に満つる海の朝空

瑠璃なす蜜《みつ》の香《か》に酔うごと
琥珀の盃《はい》を嘴《くち》にふくみ
前へ 次へ
全11ページ中5ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
野口 雨情 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング