花ざかり
桜は咲けど故郷《ふるさと》の
月は朧《おぼろ》に川しぶき
花は咲けどもちりちりに
淀の川瀬の水車《みづぐるま》
姉はよけれど妹に
鬼のお主《しゆう》の杢兵衛《もくべ》さん
とても暇《いとま》はくださらず
それでお主と申すより
さつさ行きませう
あの山越えて
淀は故郷
花の里
[#1字下げ]百舌子[#「百舌子」は中見出し]
手をこまぬきて逍遙《さまよひ》の
牛の牧場《まきば》に日は暮れぬ
夕《ゆふべ》の声の譜に合はず
林の中にひびきあり
松の林のあちこちに
耳傾けて佇《たたず》めば
そは鵙《もづ》の子のたはぶれて
小鳥《とり》の音を鳴く狡猾者《わるもの》よ
汝《なれ》は野の鳥山の鳥
野の朝山の夕間暮《ゆふまぐれ》
小鳥を覗《ねら》ふ蛇の子の
げに横着者《しれもの》よ鵙の子よ
[#1字下げ]花壇の春[#「花壇の春」は中見出し]
土やはらかく耕して
千草の種を培《つちか》へば
春風いまだ吹かぬ間に
芽こそ細くも萠ゑにたれ
やがて春風そよそよと
吹けば真昼の日もゆるく
夕《ゆふべ》となれば白露の
清き匂も満ち渡る
月を重ぬるはや三月
日に日に草ははぐまれて
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