島[#「佐渡が島」は中見出し]

瞳を上げよ寂しくも
雲にまぎるる島山の
森にぞ秋は浮びたる

入江に満つる海の香《か》も
思ひか迷ふ金色《こんじき》の
夕日ただよふ波の上

さても静けき潮さゐに
海の日暮れて紫の
雲が流るる佐渡が島

舟ぢや女ぢや腕細《うでほそ》ぢや
それでは波が関の戸の
佐渡は四十九里沖の島


[#1字下げ]籠に飼はれし鶯に[#「籠に飼はれし鶯に」は中見出し]

桃の花咲く山寺の
籠に飼れし鶯に
仔細と申し聞《きか》すべく
したり貌《かほ》なる猫の子よ

それは去年の春の事
花は霞にこめられて
桜が匂ふ曙の
帳《とばり》薫ずる花の山

うれしき春の終日《ひねもす》を
歓び叫ぶ百鳥《ももどり》の
真珠《まだま》ころがす汝《な》が声に
ききまどふこそ楽けれ

その日ゆ永き日月《じつげつ》を
花の冠《かむり》の鳥の子と
流転の玉のなが声は
永久《とこよ》の春に響くめり

己《おの》がのぞみをみだすべく
したたか者の猫の子は
籠に飼れし鶯に
仔細と申し語るらく


[#1字下げ]鬼のお主[#「鬼のお主」は中見出し]

さつさ行きませう
あの山越えりや
淀の流《ながれ》が
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