だれ》で水は増してゐるし、橋も舟もないし、困り切つてゐると、車の庄の家来は、後から後から追ひかけて来たのぢや。長者は、せめて黄金の甕だけでも敵に渡すまいと、急いで河原の土を掘つて埋めて了つたのぢや。そのまま長者も下僕も討死にして了つたから、黄金の甕を埋めたことも、埋めた場所も、誰一人知らずに幾百年も幾百年も過ぎて了つたのぢや。
それからだんだん歳がたつて、沼は田甫《たんぼ》になるし、家の数は増えて来るし、まるつ切りこの村が変つて了つた、今からおよそ百年も前ぢやが、あの川縁へ、跛《びつこ》の一ツ目小僧が出たのぢや。
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今にも、ざんぶりこ
長鍬様の
長者が 恋し
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と、うたひながら一ツ目小僧は、人さへ通れば、片足を川へ踏みはづしさうに、ぴツこりぴツこりと歩いたもんぢや。
それが村中の評判になつて、川縁を通るものが一人もなくなつて了つたのぢや。その頃この寺の檀家に藤右衛門と云ふのがあつて『俺が一つ見とどけてやらう』と出かけていつたのぢや。矢ツ張り一ツ目小僧は『今にも、ざんぶりこ……』とうたひながら、ぴツこりぴツこり歩いてゐたぢや。藤右衛門
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