その白鳥が車の庄といふ、これも素晴しい物持ちの長者が家で大切がつておいた白鳥だつたのぢや。
さア、斯うなると車の庄から長鍬の長者がところへ『何故、白鳥を殺したか』と談判《かけあひ》の使者《つかひ》が来た、長鍬の長者の方では『沼の中にゐた野鳥だから射殺したまでで、談判なぞ受ける覚えはない』と答へたのぢや。
使者《つかひ》が帰つて、その通り話すと、車の庄の長者は『白鳥を射殺しておきながら、けしからん言分《いひぶん》ぢや』と怒つて了つたのぢや。それが因《もと》で、たうとう戦《いくさ》になつたのぢや。いいか。五月雨《さみだれ》の降る晩に、車の庄の長者は、八百人の家来をつれて、長鍬長者が屋敷へ押し寄せて来たのぢや。長鍬の長者の方でも、四方の門を閉め切つて、七日七夜も戦つたのぢや。怪俄《けが》人は出来る、死人は出来る、いやはや目も当てられぬ激しい戦《いくさ》だつたのぢや。
丁度、八日目の夜明け方に、長鍬の長者はたうとう攻め落されて了つたぢや。その時長者は、黄金《こがね》の甕を下僕《しもべ》に負《しよ》はせて、今もこの村の真中に流れてゐるあの川の岸まで落ちのびて来たのぢやが、毎日の五月雨《さみ
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