[#1字下げ]梅に鶯[#「梅に鶯」は中見出し]

梅に鶯
  ちらりととまり
ちらりとまつて
  言ふことにや

竹に雀は
  仲よくとまる
梅にわたしは
  来てとまる
ホホ ホケキヨ
  ホ ホケキヨ


[#1字下げ]釣瓶[#「釣瓶」は中見出し]

釣瓶《つるべ》たたいたら
雀の鳥は
たまげはらつて
飛んで廻つた

たまげはらつて
雀の鳥は
釣瓶ちよいと見て
飛んで逃げた


[#1字下げ]鴨緑江にて[#「鴨緑江にて」は中見出し]

鴨緑江流す筏は
水まかせ

ちやうどわたしの
身の上も

その日その日の
風まかせ

人の知らない
袖しぼる


[#1字下げ]武蔵野にて[#「武蔵野にて」は中見出し]

雲雀《ひばり》の唄よ
なつかし唄よ

おいらももとは
田舎の生れ

畑の中で
麦笛吹いた


[#1字下げ]笠松小唄[#「笠松小唄」は中見出し]

木曾の御嶽《おんたけ》から
流れる水も
しばし 笠松の
岸によどむ

水の流れさへも
笠松ア恋し
わかれ惜んで
しばし よどむ
[#ここから4字下げ]
(註。笠松町は岐阜県木曽川の岸にあり)
[#ここで字下げ終わり]


[#1字下げ]竹が鼻小唄[#「竹が鼻小唄」は中見出し]

たんたん竹が鼻
よいよいよいとこ

飛んでゆきたや
翼《はね》欲しや

飛ぶに飛ばれぬ
片袖しぼる

せめて雀の
翼欲しや
[#ここから4字下げ]
(註。竹が鼻町は美濃国の小都会なり)
[#ここで字下げ終わり]


[#1字下げ]別府温泉小唄[#「別府温泉小唄」は中見出し]

[#2字下げ]海地獄[#「海地獄」は小見出し]

海の中かと
思ふてゐたりや
別府海地獄
山の中

[#2字下げ]鶴見地獄[#「鶴見地獄」は小見出し]

おさへきれない
わたしの胸は
ちやうど鶴見の
活地獄《いきぢごく》

[#2字下げ]八幡地獄[#「八幡地獄」は小見出し]

わたしや別府の
八幡《はちまん》地獄
ぶつりぶつりと
日を暮らす

[#2字下げ]血の池地獄[#「血の池地獄」は小見出し]

とてもかなしや
血の池地獄
とてもこの世と
思はれぬ

[#2字下げ]坊主地獄[#「坊主地獄」は小見出し]

因果地獄を
見たけりやおいで
因果地獄は
坊主地獄


[#1字下げ]日田小唄[#「日田小唄」は中見出し]

  ○

茶の芽ア伸びるし
鮎《あゆ》ア瀬に
のぼる
茶摘み女《をなご》も
もう来やう

  ○

茶摘みアしまへば
鮎ア瀬を
くだる
早瀬眺めて
袖しぼる
[#ここから4字下げ]
(註。大分県日田郡は野生茶の産地なり)
[#ここで字下げ終わり]


[#1字下げ]尾張奥町機場唄[#「尾張奥町機場唄」は中見出し]

[#2字下げ]一[#「一」は小見出し]

おいで おいで おいで
この町《ちやう》へおいで

来たら序《つひで》に
機織つておいで

住んで住みよい
暮してゐよい

尾張奥町は
機場でござる

[#2字下げ]二[#「二」は小見出し]

啼いた 啼いた 啼いた
また来て啼いた

軒端覗きに
ちよいと来た雀

今夜来よとて
逢はれるものか

尾張奥町は
月夜でござる
[#改段]

野雀・雀[#「野雀・雀」は大見出し]

[#1字下げ]野雀・雀[#「野雀・雀」は中見出し]

旅の(チンチン)雀か
野雀 雀

夜さへ(チンチン)明ければ
啼く雀

山で(チンチン)寝ました
枯れ木の下に(ネ)

磯で(チンチン)寝ました
小石の上に(ネ)

今は(チンチン)宿なし
野雀 雀

空を(チンチン)眺めて
日を送る


[#1字下げ]人形さん[#「人形さん」は中見出し]

七つ八つまで
赤い下駄はいた
   人形さんよ

赤い下駄見りや
思ひ出す
赤い鼻緒の
下駄はく頃にや
   人形さんよ

わたしやお母《つか》さんと
ねんねした
いつの間にやら
物恥かしい
   人形さんよ

淡いあはれの
夢もみる


[#1字下げ]三千世界[#「三千世界」は中見出し]

広いこの世は
三千世界
親のない子は
皆おいで


[#1字下げ]わが涙[#「わが涙」は中見出し]

砂の数ほど
かぞへて見たが
かぞへきれない
わが涙


[#1字下げ]雀の鳥[#「雀の鳥」は中見出し]

みんなおなりよ
雀の鳥に
雀ア家蔵《いへくら》
建てやせぬ


[#1字下げ]みなと[#「みなと」は中見出し]

山が晴れれば
    母《かか》やんよ母やんよ

あれサ港に
    風が吹く

風はわかれの
    母やんよ

あれサわたしの
    袖に吹く

山が曇れば
    父《とと》やんよ 父やんよ

あれサ港に
    雨が降る

雨は涙の
    父やんよ

あれサわたしの
    袖に降る


[#1字下げ]茨の実[#「茨の実」は中見出し
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