]
おお寒む
寒むや
赤い茨の
実が落ちる
山の木の実も
落ちたやら
おお寒む
寒むや
霜は山にも
降つたやら
[#1字下げ]因幡夕焼[#「因幡夕焼」は中見出し]
因幡夕やけ
どの山見ても
山にや
木のない
山ばかり
山にや
木はない
あの山あたりや
備前備後か
岡山か
[#1字下げ]行々子[#「行々子」は中見出し]
葦《よし》の葉蔭でカツサカサと
行々子《よしきり》ア騒ぐ
石を投げたら日の暮れ頃だにヨ
飛んで逃げた
葦は夕凪ぐカツサカサと
行々子ア帰れ
飛んで逃げよと日の暮れ頃だにヨ
石ア投げぬ
[#1字下げ]鯉の滝登り[#「鯉の滝登り」は中見出し]
鯉の滝登り
鯉の滝登りヤ
水をたよりに
滝をのぼる
滝にや滝の水
樋の水はネ
樋《かけひ》たよりに
流れてる
[#1字下げ]笑ふ門[#「笑ふ門」は中見出し]
笑ふ門《かど》には
福来るたとひ
笑て暮らそよ
皆さんよ
笑ろて暮せば
家内中《かないぢゆう》平和
愉快 愉快で
暮らされる
愉快 愉快で
家内中暮らしや
いつも穏《おだやか》
波ア立たぬ
[#1字下げ]常世の春[#「常世の春」は中見出し]
空は花ぐもり
菜の花日和
紅い花咲きや
皆恋しがる
紅い花から
こぼれて落ちる
花の雫は
汲んでも尽きぬ
少女《をとめ》若かれ
世は長閑《のどか》なれ
花は常世《とこよ》の
春に咲く
[#改段]
農民歌[#「農民歌」は大見出し]
[#1字下げ]農民歌[#「農民歌」は中見出し]
一鍬《ひとくわ》打ちな
サツクリコと打ちな
二鍬《ふたくわ》打ちな
ウントサと打ちな
この畑《はた》耕しや
一《ひと》やすみ
莨《たばこ》の煙の
一やすみ
[#1字下げ]春の来る日[#「春の来る日」は中見出し]
春の来る日にや
こころの底に
娘さんだちよ
草がちよつぴり
萠《も》やせぬか
萠えた草だと
摘まずにおけば
娘さんだちよ
軈《やが》て葉が出て
葉が茂る
茂るその葉を
そのままおけば
娘さんだちよ
遂にやちらほら
花も咲く
[#1字下げ]そらとぶ鳥[#「そらとぶ鳥」は中見出し]
空飛ぶ鳥なら
行く先やどうでも
青空まかせに
飛ばなきやならない
帆かけた船なら
行く先やどうでも
吹く風まかせに
走らにやならない
引かれた袖なら
行く先やどうでも
行く先まかせに
行かなきやならない
流れる水なら
行く先やどうでも
瀬と淵まかせに
流れにやならない
[#1字下げ]横丁生れ[#「横丁生れ」は中見出し]
お乳母日傘の
娘さん達よ
わたしや下街《したまち》
横丁の生れ
蝶よ花よぢや
育ちやせぬ
産みの親より
育ての親ぢや
親も横丁の
角《かど》生れ
わたしや皆さん
気も荒い
[#1字下げ]狐見るたび[#「狐見るたび」は中見出し]
狐見るたび
おら考へる(ドツコイ)
可愛女に
なぜ化けぬ
化けてくれれば
話しもあるが(ドツコイ)
化けにや狐と
話されぬ
[#1字下げ]踵[#「踵」は中見出し]
踵《かかと》たたいたりや
踵見て泣いた
踵見ながら
笊投げた
笊は空笊《からざる》
ころげてまはりや
踵忘れて
笊見てる
[#1字下げ]子蜂[#「子蜂」は中見出し]
梨の番すりや
蜂の子が憎や
子蜂アな
子蜂ア飛んで来て
梨刺した
[#1字下げ]あの山蔭[#「あの山蔭」は中見出し]
山は 霜枯れ
月や細枯れる
お月や出てても
あの山蔭にや
鬼が棲む[#「棲む」は底本では「褄む」]だろ
なヨ 母《かか》や
[#1字下げ]もと米磨ぎの唄[#「もと米磨ぎの唄」は中見出し]
桶をながめてお米が磨げりや
お百姓さんは
田さへながめりや蔵が建つ
(トコ トコダト磨ぎぬきな)
一桶《ひとをけ》磨ぐのにや十桶《とをけ》の水汲み
夜明けの明星は
まだまだチラリだ
(トコ トコダト磨ぎぬきな)
この桶あげなきや仕込みがおくれる
仕込みがおくれりや
お暇《いとま》出される
(トコ トコダト磨ぎぬきな)
お暇出されりや酒蔵《おくら》とおわかれ
そのときや
あの娘《こ》と泣きわかれ
(トコ トコダト磨ぎぬきな)
そのときやそのときおさらばさらばだ
天道《てんと》さままかせに
足まかせ
(トコ トコダト磨ぎぬきな)
さうなりやこの地へ来年来るやら
当《あて》さへないから
尚更あの娘《こ》と泣きわかれ
(トコ トコダト磨ぎぬきな)
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