親心[#「親心」は中見出し]
お袖引かれりや
いやだと言へよ
ほいと呼ばれりや
顔かくせ
十四頃なりや
未通《おぼこ》で通る
明けりや二十一
十四と七つ
聞いて下さい
お母さんよ
燃ゆる心は
かくされぬ
[#1字下げ]菜の花踊り[#「菜の花踊り」は中見出し]
咲けや菜の花
揉めろや菜の葉 ホイホイ
お月や片割れ
昼出てる ササ ホイホイ
わしと昼出る
片割れお月や ホイホイ
連れ衆ほしさに
気が滅入る ササ ホイホイ
連れ衆持たせりや
すちや ちやら ちやらか ホイホイ
連れ衆眺めて
わしや暮す ササ ホイホイ
咲けや菜の花
揉めろや菜の葉 ホイホイ
花が揃はにや
葉が揉める ササ ホイホイ
昼の日中に
菜の葉が揉めりや ホイホイ
お月や焦れて
細枯れる ササ ホイホイ
可愛や昼出る
細枯れお月や ホイホイ
連れ衆ほしさに
夢もみる ササ ホイホイ
[#1字下げ]娘と船大工[#「娘と船大工」は中見出し]
娘
橋をかけたや
音戸《おんど》の瀬戸へ
通《かよ》てゆきたや
船大工さんよ
船大工
汐にせかれりや
橋ア流る
娘
橋が流れりや
わたしも流る
小舟ほしいや
船大工さんよ
船大工
舟も櫓がなきや
流される
娘
橋はせかれる
舟ア流される
通て来るなか
船大工さんよ
船大工
命《いのち》帆《ほ》にして
通て来よ
[#1字下げ]恋の巣立ち[#「恋の巣立ち」は中見出し]
恋の巣立ちか
夕《ゆふべ》のお星や
触れりや落ちそにもう出てる
触れりや落ちそに
もう出てる
女なりやこそ
涙ももろい
恋の甘さにや泣かされる
恋の甘さにや
泣かされる
空はたそがれ
夕のお星や
うぶな心であこがれる
うぶな心で
あこがれる
[#改段]
鴫の声[#「鴫の声」は大見出し]
[#1字下げ]鴫の声[#「鴫の声」は中見出し]
晩げになつても
お母《つか》さんが来ない
お母さん来るかと
出て見たりや
スイスイちけ
鴫の声
鴫は田で啼く
可愛《かあい》鳥《とり》
待つてもお母さんの
来ないときや
せどの田甫で
いつも啼く
[#1字下げ]岩手小唄[#「岩手小唄」は中見出し]
○
岩手片富士
あの山蔭で
なじよな心で あねこよ
暮すやら
○
あねこ思へば
あの山蔭の
雪もおぼろに あねこよ
解けぬかや
[#1字下げ]笠松機場唄[#「笠松機場唄」は中見出し]
[#2字下げ]一[#「一」は小見出し]
言ふた 言ふた 言ふた
お母《つか》さんが言ふた
美濃の笠松ア
住みよて居よい
同じゆくなら
美濃縞織りに
娘ゆけよと
よいこと言ふた
[#2字下げ]二[#「二」は小見出し]
トンカ トンカ トンカ
機場《はたば》で暮らしや
いつも心が
トンカ トンカ若い
昨夜《ゆふべ》夢みた
機場の夢を
ゆこかお母《つか》さん
美濃縞織りに
[#1字下げ]さむらひ[#「さむらひ」は中見出し]
空の雲さへ
日の暮れにや
風に吹かれて
はぐれがち
風はなさけに
吹くぢやなし
雨もなさけに
降るぢやなし
どうせなさけの
風ぢやとて
涙まさせる
ことばかり
[#1字下げ]小松の蔭[#「小松の蔭」は中見出し]
雉子《きぎす》ア啼くから
出て山見たりや
雉子ア小松の
雉子ア小松の
蔭で啼く
山は焼け山
焼け山蔭ぢや
雉子ア棲もとて
棲まりやせぬ
棲むにや棲まれず
小松の蔭へ
姿隠して
姿隠して
雉子ア啼く
雉子ア鳥でも
姿を隠す
人目しのんで
いぢらしや
[#1字下げ]籔鶯[#「籔鶯」は中見出し]
どこで生れた
籔鶯よ
わたしや谷間の
籔育ち
谷間出るときや
氷の筏
山にや斑《まだら》に
雪も降る
長い旅ゆゑ
窶《やつ》れたわたし
姿見せるも
恥かしや
[#1字下げ]雉子の雌鳥[#「雉子の雌鳥」は中見出し]
雉子《きじ》の雌鳥《めんどり》や
茅野の中で
子供たづねて
ほろたたく
わが子可愛や
茅野は深や
ほろろ ほろちけ
ほろたたく
西でほろほろ
東でほろろ
藤の焼け蔓
見ちやほろろ
わが子可愛や
地べたは広や
どこが地べたの
果てだやら
一の山越え
二山《ふたやま》蔭にや
同じ野もありや
原もある
雉子の雌鳥や
地べたの上を
踏んで啼き啼き
ほろたたく
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