發揮せるものとして注意すべく、その時代の代表者ともいふべきは藤原隆信なり。
 今日隆信の遺品とさるゝものゝ中、最も有名なるものは、高雄神護寺の後白河法皇・平重盛・源頼朝・光能・文覺上人の肖像畫なり。これ等神護寺所藏のものは、既に鎌倉時代末頃より隆信の筆として、以上の人々の肖像なりと傳へられしものなるが、其畫の主名に關しては頗る疑を插む餘地あり。其點に就ては後に論及すべきが、其中の或物はたしかに唐代肖像畫より全く脱離したる新しき手法のものあることは明かにして、特に重盛・頼朝と稱せらるゝ二幀は此種類に屬す。後白河法皇・文覺上人はこれに比すれば頗る手法の相違あるものにして、前者が隆信の眞蹟とすれば、後者は果して隆信の筆なりや否やを疑はしめ、後者は其手法になほ唐代肖像畫の遺風あるかの如き心地せらる。尤も此等の肖像畫を批評するに就いて、從來の鑑賞家は其服裝に關して議論せるものあれども、それは當を失せり。隆信は當時の「似せ繪」の名人と言はれし人なる事は、九條兼實の『玉葉』にも見ゆる所にして、其長ずる所は人物の面相にあり、服裝等は土佐光長等が畫き足したるものといはる。要するに隆信は日本肖像畫の新時代
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