の如き淨土思想の發生ありしことは、當時思想上の覺醒ありし證にして、藤原時代に於ては、この淨土教もなほ貴族的なる趣味に囚はれて山越阿彌陀とか二十五菩薩來迎圖などの如き綺羅びやかなる思想を有せしが、鎌倉初期となるや權力思想の覺醒が地方武士に及べる結果、其時代に興れる宗教思想も簡素なる地方武士の生活に相應せる者となり、こゝに淨土宗・眞宗・日蓮宗を生じ、其創立者はみな一代の天才なり。この間に於て武人にありても、頼朝の如き天才的政治家、義經の如き天才的戰術家を生み、縉紳の間にても、比較的低き階級より藤原信西・大江廣元の如き經綸の材を有する人々出で來りて、階級と思想との動搖一般的に行き亙れり。此の動搖によりて天才の輩出する際に、藝術の方にも天才の出現あり、一般の繪畫彫刻にもみな此傾向ありしなり。此時代は最も日本の特色を發揮したる時代にして、其間に生れたる肖像畫も日本獨得の精采を有し、以て南北朝までは多少階級と思想との動搖ありしに伴ひて繼續せられ、後醍醐天皇の時代の如きは、種々なる方面に古來の因習を脱却して、獨創的の思想を表現せるものを續出したりしなり。されば單に外部の事情より推すも、此の如く藤原末
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