りますが、さう申した丈けでは、餘り説明が簡單で分りにくいだらうと思ひますから、先程申した一つの例を擧げて、その心持がお分りになるかどうかといふ材料に供して見ませう。
 先程近代的織物が貴族的織物と異つて大衆本位になつて來たといふことを申しました。これははつきりと證據がいへます。近代元明以後、最も支那で良い織物として、最も多量に出來ます織物は緞子であります。この緞子といふ名前を見て、織物が大量生産になり、大衆向になつたといふことが分ります。緞子は實は段子と書いて宜いので、その段子といふことは織物の一反二反といふ反のことであります。近代支那で天子の御用の織物をしまつて置く庫があります。そのことを段匹庫と申します。それは織物をしまつて置く庫といふことであります。日本でも織物のことを反物と申しますのは、これと同じ意味で付けた言葉であります。つまり段子といふのは、日本に飜譯して反物といふと同じ意味、即ちこれは反で出來るといふことでありますが、反で出來るといふことは大量生産といふ意味です。貴族時代のやうに、一寸が必要であれば一寸の織物を作る、一尺必要であれば一尺の織物を作るといふことでない。兎に角
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