悦んだ。
 その序に天台円頓の十戒を解説したが、叡山は大乗戒、この寺は小乗戒と述べたので大衆が動揺したけれども、古老が申しなだめることがあって無事に済んだ。
 法然は和歌を作ることを好んではやらなかったけれども、我国の風俗に従って、法門に事よせては時々和歌を作られたこともある。それを門弟が記し伝えたり、或は死んだ後に世間へ披露されたもののうちに、
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   春
さへられぬ光もあるをおしなべて
  へだてがほなるあさがすみかな
   夏
われはただほとけにいつかあをひぐさ
  こころのつまにかけぬ日ぞなき
   秋
阿弥陀仏にそむる心の色にいでば
  秋の梢のたぐひならまし
   冬
雪のうちに仏の御名を唱れば
  つもれるつみぞやがてきえぬる
   逢[#二]仏法[#一]捨[#二]身命[#一]と云へる事を
かりそめの色のゆかりの恋にだに
 あふには身をもをしみやはする
  勝尾寺にて
柴の戸にあけくれかかる白雲を
  いつむらさきの色にみなさむ
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極楽往生の行業には余の行をさしおきてただ本願の念仏を
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