ち》が坐しつらねている。その他山門の衆徒をはじめ、見聞の人も少ない数ではなかった。論談往復すること一日一夜である。法然は、法相、三論、華厳、法華、真言、仏心等の諸宗にわたって、凡夫の初心より仏果の極位《ごくい》に至るまで、修行の方法や、得度《とくど》のすがた等をつぶさにのべ、これ等の方は皆義理も深く利益もすぐれているから、機法さえ相応すれば得脱は疑う処ではないが、といって凡夫はこれにつき難い事を述べ、浄土の教門の事の理をきわめ言葉をつくして説き語り、
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ただこれ涯分の自証を述ぶるばかりなり。またく上機の解行《げぎょう》を妨げんとにはあらず。
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 という謙譲なる註釈を以てその席は終った。座主をはじめ満座の衆皆心服して、
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かたちを見れば源空上人。まことは弥陀如来の応現かとぞ感嘆しあえりける。
法印香炉をとり高声念仏をはじめ行道したもうに。大衆みな同音に。念仏を修すること三日三夜。こえ山谷にみち。ひびき林野をうごかす。信をおこし縁を結ぶ人おおかりき。
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 と「御伝」の本文にある。
 以来顕真法印は専
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