て、皆悉く往生の行のうちに摂している。何ぞ独り法華だけが漏れる筈がない。普《あまね》く摂する心は念仏に対してこれを廃せんが為である」
といった。使が帰ってこのことを語ると僧都は口を閉じて言葉がなかったということである。
或時|宜※[#「火+禾」、第4水準2−82−81]門《ぎしゅうもん》の女院が中宮で一品《いっぽん》の宮を御懐妊の時に、法然は御戒の師に召され、公胤は御導師としてまいり合せたことがあった。御受戒が終って法然が退出しようとした時に、僧都の請によって暫く問答することになった。僧都は法然に向い、
「上人には念仏のことをお尋ね申すのが本来であろうがまず大要なるにつきて申して見ると、東大寺の戒の四分律《しぶりつ》であるのは如何なる謂《い》われでござろうか」
そこで法然は東大寺の戒の四分律であるべき道理をつぶさに話して聞かせた。僧都が帰って考えて見ると法然の云われたことが少しも違わなかったから、次の日又参会の時、
「昨日お仰せになったことは、まことにお言葉の通りでございました」
といって、法然を尊敬し、それから浄土の法門を話したり、その他のことを語った。その時僧都が玄※[#「
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