きなせえ。それから、煮炊《にたき》をする鍋釜、米と塩、鰹節と切干――食料は、よく中身を調べて、この次へこうしてお置きなせえ。とりあえず野陣を張る天幕はいいかね、張縄から槌《つち》、落ちはないかね。それからお医者さんの道具と薬箱、これは潮水に当てねえように、雨にかからねえように、桐油《とうゆ》をかけて、細引にからげて、取扱注意としておくんなさいよ。めいめい足を忘れねえように、蛮地の山坂を歩くには足が大事だよ、足が――沓《くつ》に慣れた者は沓、草鞋《わらじ》草履《ぞうり》の用意、二足でも、三足でも、よけい腰にブラ下げるようにして、水筒には、それぞれ湯ざましを入れて、これも腰から放さねえことだ。陸《おか》へ上ったら、直ぐに飲める水が有るか、ねえか、そこのところの用心だ、時候がわりの土地へ来て、うっかり悪い水を飲んじゃあ、取返しがつかねえぜ」
さてまた、婦人と小児の周旋は、お松が承って、これを担当する――
婦人といっても、監督のお松と、それから乳母《ばあや》、七兵衛入道が押しつけられて来た南部の生娘《きむすめ》のお喜代――番外としては、ほとんど監禁同様に船室に留められている兵部の娘、それだ
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