けのもので、小児としては登少年たった一人――清澄の茂太郎は、小児扱いをすることはできない。
男子はすべて、総上陸の用意をしているが、婦人と小児は、必ずしもそうは急がない。というのは、果して、あの島に安全生活の保証が立つか立たないかは、船長と総監(白雲のこと)が帰って来てでなければわからない。よし、人間の生活に堪えることが充分に保証ができたとしても、婦人小児連は当分の間、野営同様の空気に曝《さら》されるよりは、この船の中を当分の住居としていて、陸上に相当の住宅準備が出来て後、本上陸ということにしても遅くはない。よって、これら婦人部隊は、比較的に動揺が穏かです。
幸いにして、婦人部隊に至るまで、いずれも健康に恵まれている。恵まれているというよりも、船長の周到なる用意と知識とが、船上衛生に抜かりなからしめている。その上に、食糧から医薬に至るまでの準備が潤沢であった――等々の条件が、船員のすべての健康を保証していたので、健康以上に張りきった精力に溢《あふ》れて見えるのさえある。
してみると、ここまで、世間の漂流記にあるような極度の欠乏や困苦から、この船員はすべて免らされて来ている。天候と
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