つきな、猿廻しの与次郎とおいでなさるんだ、お前を背負って、おいらが走る分にゃあ、ドコからも文句の出し手はあるめえぜ」
「合点《がってん》だ」
その時の米友は、感心に人見知りをしません。投げるだけ投げた手を、ぱたぱたとはたき上げたかと見る間に――
袋はそのまま杖槍は腰に、猿が猿まわしに取っつくように、がんりき[#「がんりき」に傍点]の背中へ御免とも言わずに飛びつくと、心得たもので、がんりき[#「がんりき」に傍点]の百が、そのまま諸《もろ》に肩をゆすり上げて――
「あばよ!」
と言って、献上組を尻目にかけ、足の馬力にエンジンをかけると、その迅《はや》いこと。
「あれよ、あれよ」
と献上組、あとを追わんとする者なし。
十九
駒井甚三郎の無名丸が、東経百七十度、北緯三十度の附近にある、ある無名島に漂着したのは、あれから約二十日の後でありました。
漂着というけれども、むしろこれは到着と言った方がよいかも知れぬ。
船がある一定の航路を持っている限りに於て、それが誤れば漂着であり、それが正しければ到着であるが、駒井の船は到着すべき目的地を持ちませんでした。
海上は、
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