まっちい蝙蝠安《こうもりやす》が出来上る。
「その昔の、おいらの先祖の鎮西八郎為朝公《ちんぜいはちろうためともこう》じゃあねえが、お望みのところを打って上げるから申し出な、頭痛、目まい、立ちくらみ、齲歯《むしば》の病、膏薬《こうやく》を貼ってもらいてえお立合は、遠慮なく申し出な、そっちの方の大たぶさの兄いが、イヤに物欲しそうな面《つら》あしておいでなさる、ドレ一丁献じやしょうか、そうら!」
空《くう》を切って飛んだのは、今度は名代の当百《とうひゃく》。以前のよりは少々重味があって、それが物欲しそうな大たぶさの耳の下をかすめて、鬢《びん》つけの中へ、ダムダム弾のようにくぐり込んだのだからたまらない。
「あっ!」
と、自分で自分の髪の毛をかきむしってとび上りました。
「そうら、こちらの方でも御用とおっしゃる」
今度は一っ掴み、数でこなしてバラ蒔いて、
「あちらの方でも御用とおっしゃる」
指の股へ四枚はさんで、四枚を同時に振り出すと、それが眼あるもののように飛び出して、相手四人の顔面へ好みによって喰いつこうというのだから、眼も当てられない。
「こちらの方でも御用とおっしゃる」
恵方《
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