! と言わせる間に素早く飛びのいて、例の金袋を引っかつぐや否や後ろへさがったのは、逃げるつもりではない、足場をつくるつもりらしい。
十八
そこで、梨の木を一本、後ろ楯《だて》に取って、袋をかこい、蟠《わだかま》った米友は、例の手練の杖槍を取って、淡路流に魚鱗の構えを見せるかと思うと、そうでなく、後ろにかこった金の袋の結び目へ手をかけて、
「面倒くせえから、それ、欲しけりゃあくれてやらあ、手を出すなら出してみな、面《つら》でも腕でも持って来な、目口から押出すほど食わしてやらあ!」
袋の結び目を手早く解いて、その両手を袋の中に突込むと、すくえるだけのザク銭《ぜに》をすくい上げ、
「そうれ!」
と言ってバラ蒔《ま》きました。バラ蒔いたその当面は、呆気《あっけ》に取られた献上隊の目と鼻の間です。
「あっ!」
と、これにはまた事実上の面喰いで、予期しなかった目つぶし。相手にこれほどの飛道具が有ろうとは思わなかった。
さて、それから、花咲爺が灰を取り出して蒔くように、掴《つか》んでは投げ、掴んでは投げる。
何といっても、盲滅法《めくらめっぽう》に投げるのではない、十分
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