年後の今日の科学で解釈がつかないというんですから、現代の科学も底の知れたものです。あれはぜひ一見の必要がありますな」
 こう言って説き立てたものですから、お銀様が、その明日という日に、この通り醍醐詣でとなった始末であります。随行に選ばれたのはお角と米友、これは不破の関守氏の当然の見立てでもあり、本人たちも納得したところであります。
 山科から醍醐までは下り易《やす》い道です、歩き易い距離でした。道は平坦《へいたん》だが、前に言う通り、流れに棹《さお》さして下る底の道であります。ほどなく、逆三位一体は、醍醐三宝院の門前に着きました。

         三

 お銀様とお角さんが三宝院のお庭拝見をしている間、米友は門前の石橋の欄《てすり》に腰打ちかけて休んでおりました。そこへ、六地蔵の方から突然に、けったいな男が現われて、
「兄《あに》い、洛北の岩倉村に大賭場《おおとば》があるんだが、ひとつ、かついで行かねえか、いい銭になるぜ」
と、いったい、藪《やぶ》から棒に、誰に向って、こんなことを言いかけたのか、米友としても、ちょっと途方に暮れて、忙がわしく前後左右を見渡したけれども、自分のほかに
前へ 次へ
全386ページ中9ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング