たが、相手にせず、すぐさま立て直って、がんりき[#「がんりき」に傍点]に顎で教えられた通り、門をめざして粛々と繰込んで行きます。
 がんりき[#「がんりき」に傍点]は、御大相な奴等だ、いったい何をかつぎ込むのかと、一行の後ろ影を見送っていましたが、はっと気のついたことは、そうだ、そうだ、うっかり釣り込まれて、本職を忘れていたわい。
 こっちは、中納言様、中納言様と下手《したて》にばっかり出て来たが、あいつらは、岩倉三位、岩倉三位と、大きそうに出やがって練込んで行くが、結局、帰《き》するところは一つで、東西きっての大賭場が開けるというその貸元をたずねて行く奴なんだ。こっちの符牒《ふちょう》が間違っているから、グレ通しだが、おいらと同じ目的のため、ああして乗込んだにちげえねえ。こいつぁ、うっかり口をあいて見ているばっかりの場合でねえぞ。あの尻尾をつかまえてやれと、百は早くもそこを合点したものですから、忙がわしく米友に向って、
「兄さん、おいらが、きっと突留めて来るからお前、そこんとこでひとつ待っててくんな、首尾がよければ、あの門の前で手を挙げるから、この手が挙がったら、お前、物言わず門の方
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