へやって来てくんな」
こう言って、米友を小蔭に休らわせて置いて、自分は抜からぬ面で、いま顎で教えてやった一行の後をくっついて、再び岩倉三位の邸前まで取ってかえしたものです。
十六
そうして、動静《ようす》いかにと窺《うかが》っていると、この物々しい一行は、玄関へかかると、恭しく、先手が承って捧げた三宝を式台に置き、おごそかにその錦の覆いを払って、それから、一同はこれより三歩さがって、土下座をきりました。
「岩倉三位殿に献上!」
「岩倉三位殿に献上!」
こう言って、土下座をきって跪《かしこ》まった一同が、異口同音に呼ばわったかと思うと、そのまま突立ち上り、踵《きびす》を返して、さっさともと来し門外へ取って返すものですから、ここでも、がんりき[#「がんりき」に傍点]の百が、すっかり拍子抜けがしてしまいました。
これは、てっきり、こちとらと目的を同じうした東西のお歴々、壺振、中盆《なかぼん》、用心棒、の一隊と見て取って、直ちに諒解があって、玄関へ通されるか、裏手へ廻されるか、こっちの方もそれに準じてと、固唾《かたず》を呑んでいると、案に相違して、かくの如く、献上
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