で、がんりき[#「がんりき」に傍点]の百が、狐につままれたような面《かお》をして、岩倉三位の門前を、振返り、振返りながら退却に及ぶと、それと行当りばったりに、一つの団隊と衝突しました。衝突というわけではないが、危なく摺違《すれちが》って、見ると、これは穏やかならぬ同勢でありました。都合十人も一隊をなして、いずれも肩を聳《そび》やかし、一種当るべからざる殺気を漲《みなぎ》らして、粛々と練って来たのでありますが、その風体《ふうてい》を見ると、今の流行の壮士風、大刀を横たえたのが数名、それに随従する無頼漢風のが数名。先頭に立った一人が、恭《うやうや》しく三宝を目八分に捧げて、三宝の上には何物をか載せて、その上を黄色のふくさと覚しいので蔽《かく》している。
がんりき[#「がんりき」に傍点]の百が危なく体をかわす途端に、
「コレコレ、岩倉三位の屋敷はドコだ」
それが、あんまり粗暴で横柄なたずね方ですから、がんりき[#「がんりき」に傍点]の百もいい気持がしない。顎《あご》を突き出して、唇を反《そ》らして、たったいま新知識の岩倉邸の門を、つまり顎で指図して教えてやると、先方は、ちょっと妙な面をし
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