なんで、噂に聞くと大したもので、なんでも北は会津から、東は水戸、南は薩摩の涯《はて》から、赤間ヶ関の親分までが、ズラリと面を並べる凄《すげ》えんだそうですが、来て見ると、見ると聞くとは大きな違い、ドコにそんな大親分がいらっしゃるか、ドコに天下分け目のトバが御開帳になっているか、てんで烟《けむり》も見えやしません。もしやこの山の上か、谷の底か、そんなところに本陣が据えてお有りになるんじぁございませんか。土地のお方に伺えばわかると存じまして、おたずね申し上げるんでございますが、そんなような気分の場所は、この近辺にございませんかなあ」
がんりき[#「がんりき」に傍点]が、こう言ってイヤに含み声を鼻にかけたが、相手は全然取合わない。
「外で何ぞ物を言う奴がいる、追い返せ」
と、奥に向って人に命ずる気色ですから、がんりき[#「がんりき」に傍点]がテレもし、狼狽もし、こいつはお歯に合わないと、そのまま、ほうほうの体でその垣根を立ちのいて、次へと移りました。
こうして、広くもあらぬ岩倉村を、がんりき[#「がんりき」に傍点]と米友とは、次から次へとおとのうて歩きましたけれども、中納言のお邸というの
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