は、見当りもせず、聞き当てもせず、まして丁々発止のトバの気分などは、この男自慢の鋭敏な鼻を以てしても嗅ぎつけることができず、結局、うろうろして再び舞い戻って来たのは、さいぜんの垣根越し、あの癪にさわる、威光のある親爺《おやじ》から追払われた、その垣根から屋敷の周囲をめぐって見ると、とにかく、村中きってこれだけの構えの家はない。なにも驚くほどの宏でも壮でもないけれども、作りに奥行があって、なにか物々しい屋敷といえば、これほどのものはほかにない。
 ということを、がんりき[#「がんりき」に傍点]が再吟味をしてみると、はて、ことによると、今のあの色の黒い、頭のでっかい、眼の光るおやじが、あれが中納言かも知れない。
 してみると、たずねる山は、このお屋敷かな、その気になって見ると、どうやら少々臭いぞ、だが――ここは大トバの開かれるキボでねえと、がんりき[#「がんりき」に傍点]の鼻は直ちに否定してかかったけれども、それでも念のためと、今度はひとつ、表門から正式は憚《はばか》りがあるとして、裏門の方からこっそり探りを入れてみようじゃないか。
 その気取りで、がんりき[#「がんりき」に傍点]は垣根を
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