って、頭を上げた途端にこちらを睨《にら》んだ眼つきに、がんりき[#「がんりき」に傍点]が思わず慄《ふる》え上りました。
「これは飛んだ失礼――」
と、やみくもに頭を下げたのは、お爺さんなんぞと呼びかけてみたが、これはまだお爺さんというべきほどの年ではない、四十歳の前後でしょうが、その人相が、今まで見たことのないほどの異相を備えているということが、がんりき[#「がんりき」に傍点]をおびえさせたので、つまり威光に打たれたというような気合負けなのでした。見てみると、色が黒くて頭が人並|外《はず》れて大きい、そうして、その頭の結い方を見ると、武家にも町人にも見られない形。そうかといって、お公卿《くげ》さんのようでもあり、還俗《げんぞく》した出家のようでもあり、どうにもちょっと判断のつけようがない人柄ですが、その眼光の鋭いこと、人品におのずから人を圧する威力というようなものがあって、がんりき[#「がんりき」に傍点]の野郎などは一睨みで、危うくケシ飛んでしまいそうなところを危なく食いとめたが、食いとめてみると、「おどかしやがんない、やい」といったような反動で、こいつにひとつ、しつこく物をたずね返し
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