ました。
 そういうわけで、がんりき[#「がんりき」に傍点]もあきらめたのです。こいつは買収もできないし、懐柔も利かない。触らぬ神に祟《たた》り無しだと、神様扱いにして道のりを進め、粟田口から三条橋は渡らず、二条新地をずんずん北に取って、八瀬大原の方へと急ぎます。

         十五

 ほどなく、洛北岩倉村に着きは着いたが、さて賭場《とば》の在所《ありか》がわからない。
 トバはドコだ、トバはドコだと聞いて廻るわけにはゆきません。なあに、広くもあらぬ山ふところの岩倉村だ、やがて嗅ぎつけてみせると、がんりき[#「がんりき」に傍点]はがんりき[#「がんりき」に傍点]の意地で、里人に物をたずねようともせず、そこここと嗅ぎ廻ったが、相当この道に鋭敏なはずのがんりき[#「がんりき」に傍点]の鼻が利かないのは不思議なほどです。
 少々たずねあぐんだ時に、ふと小ぎれいな垣根越しに見ると、庭にうずくまって植木いじりをしている一人の老人を見かけました。
「モシ、お爺さん、ちょっと物をたずねたいんですがね」
と、がんりき[#「がんりき」に傍点]が猫撫声で問いかけると、垣根越しに、
「何だ!」
と言
前へ 次へ
全386ページ中66ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング