あ》るべきところへ在らしめるように働くのはおよそ人生の義務であるという建前から、いけ好かない野郎と同行の不快を忍んで、金かつぎの役目に廻った次第です。
ですから、途中、一言も利《き》きません。いけ好かない野郎が、しきりにおてんたらを言って御機嫌を取ろうとするのを、うるさいとばかり素気《そっけ》なく、一言も口を利いてやらないのであります。
いけ好かない野郎にしてもまた、このグロテスクの気象を先刻御承知だから、できるだけその御機嫌を取結んで、いけ好くようにしようとつとめるのだが、さっぱり利き目がありません。
「兄さん、団子を買ったが食わねえか、それともお饅頭《まんじゅう》の方がよけりぁ、お饅頭にしな」
と言って、日岡の峠茶屋で甘い物を振舞おうとしたが、米友は根っから受けつけません。
「食いたかねえよ、おいらは食いたけりゃ自分の銭を出して食うよ、お前に買ってもらって食うせきはねえ」
と、この時に米友がはじめて応答したぐらいのものです。かく応答するかと見ると、自分は汚ない巾着《きんちゃく》を出して、手早く鳥目を幾つか並べると共に、茶屋の大福餅を鷲掴《わしづか》みにして、むしゃむしゃと頬張り
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