しょう、いいでござんすか」
「相手に取って不足ではあるが、拙者が君の向うを張るから、本式に、稽古と思わず勝負のつもりで、一つやってみてくれ給え、つまり、君が丁方となり、拙者が半方となる、では、君が半方を張り、拙者が丁と張るから、一番、委細のところを見せてもらいたい」
「ようがす、そのつもりで、手ほどきから御教授を致しましょう」
と言って、がんりき[#「がんりき」に傍点]は、座を立ち上ると、盆ゴザの中央のところへ、前に言った通り南向きにどっかと坐り込みました。

         十二

 盆ゴザの中央へ坐り込んだ途端に、がんりき[#「がんりき」に傍点]の百が、無けなしの片腕を内懐ろへ逆にくぐらせたと見ると、パッと片肌をぬいでしまい、それと同時に着物の裾《すそ》をひんまくった源氏店《げんやだな》、つまりこれが俗にいう尻をヒンマクる形だと関守氏が、見て取りました。今時は芝居でよく見る形、悪党がかけ合いをする時の常作法、尻をマクルというやり方を舞台では見るが、本場はこれがはじめて、下品極まる伝統的作法ではあるが、下品のうちにも作法は作法、こうしたものかと見ていると、
「まず壺振りの芸当始まり
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