んなゴザなんだ、バクチ打ち特有のゴザが別製に編ましてあるのか、いや、まだそのさきに、この場では湯呑が代用のその本格の壺というやつの説明も願いたい」
「壺でげすか、壺は、かんぜんより[#「かんぜんより」に傍点]でこしらえた、さし渡し三寸ばかりのお椀《わん》と思えば間違いございません、雁皮《がんぴ》を細く切ってそれを紙撚《こより》にこしらえ、それでキセルの筒を編むと同じように編み上げた品を本格と致しやす、それから盆ゴザと申しやしても、特別別製に編ましたゴザがあるわけではございません、世間並みのゴザ、花ゴザでもなんでもかまいませんよ、それを賭場《とば》へ敷き込んで、その両側へ丁方と半方が並びます、そうすると壺振が、そのまんなかどころへ南向きに坐り込むのが作法でござんさあ」
「まあ、待ち給え、いちいち実物によって……時節柄だから代用品で間に合わせるとして、ここにゴザがある」
と言って関守氏は、つと立って、なげしの上から捲き込んだ一枚のゴザを取り出して、それをがんりき[#「がんりき」に傍点]の前で展開しました。
「結構にござんす、それじゃあひとつ、盆ゴザを張って、本式に稽古をつけてごらんに入れや
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