あるとか、そうでなければ、身たとえ名門良家に生れたにしてからが、放たれ、棄てられたと同じ月日の下に置かれた人の子が、こういうところへ送り込まれるのだ。あわよくば名僧智識にもなれようけれど、それは千万人に一人。そういうわけだから、存外、この買出しは楽かも知れない。そんなような謀叛気がお角さんの頭にむらむらと湧いて来たのは、実行の如何《いかん》にかかわらず、商売商売の冥利《みょうり》だから仕方がありません。
 だが、それともう一つ異った人情味に於て、お角親方は、あの小僧をつれ出して、友公と引合わして兄弟名乗りをさせてやりたい、そうすれば二人も喜んで、こっちも功徳になる――なんぞという人情味も大いに湧いているのです。これとても独断千万なことで、似ているからといって、それが兄弟ときまったわけのものではないが、さすがのお角さんの頭も、今日の瞬間には、想像と実際とが混乱していると見える。

         九

 三位一体を醍醐《だいご》へ向けて送り出して後の不破の関守が、がんりき[#「がんりき」に傍点]の百蔵を端近く呼んで、こう言いました、
「がん[#「がん」に傍点]ちゃんや、洛北の岩倉村に大
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