下げ]
「鎮護国家ノ法タル大元帥御修法ノ本尊、斯法《しほふ》タルヤ則《すなは》チ如来《によらい》ノ肝心《かんじん》、衆生《しゆじやう》ノ父母《ぶも》、国ニ於テハ城塹《じやうざん》、人ニ於テハ筋脈《きんみやく》ナリ、是ノ大元帥ハ都内ニハ十|供奉《ぐぶ》以外ニ伝ヘズ、諸州節度ノ宅ヲ出ヅルコトナシ、縁ヲ表スルニソノ霊験不可思議|也《なり》」
[#ここで字下げ終わり]
 音をたどればそういうような文言を読み上げているのだが、お角さんには、そのなにかがわからない。ただ、お経を読み上げているとのみ聞えるのですが、わからないのはお角さんばかりではない、読んでいる御当人もわかっているのではないから、ただ音を並べているだけなのが、そこが即ち、お角さんの言う門前の小僧が習わぬ経を読むもので、こうして無関心に繰返しているうちに、説明となり、密語となって巻舒《けんじょ》されることと思われます。
 お角さんは、そのいわゆる、習わぬ経を繰返す門前の小僧の咽喉《のど》が意外にいいことを感づくと同時に、これをひとつもの[#「もの」に傍点]にしてみたら、どんなものであろうという気がむらむらと起りました。
 もの[#「も
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