やかな安居《あんご》の地を求めて、そこへ飛花落葉を積み重ね、正身《しょうじん》の座を構えると共に、心神をすまして音なしの音を聞かんとすることが、この法師の早天暁の欠かさぬつとめ、世間は暫く彼の広長舌から免れるの自由を得ました。
七十三
有野村の与八が、この春から勧化《かんげ》をして歩いたことの一つに、荒地の開拓と、ハト麦の栽培、ジャガタラ薯《いも》の増産等があります。
与八は、その時、こう言って村々に勧誘をして廻りました――
皆さん、何が怖ろしいといって、戦争と饑饉ほど怖ろしいものはこの世にございません。地震だの、雷だの、火事だのというものも怖ろしいには違いありませんけれど、その災難の程度を比べると、戦争や饑饉と比べものにはなりませんよ。戦争はどうかすると一国の人を殺してしまい、一つの国を亡ぼしてしまうことがございます。饑饉もまた国中の人が、のたれ死をしてしまうこともございます。戦争のことは人間のすることですから、わしらにはわからねえですが、饑饉は天道様《てんとさま》のお仕置だから、わしも少しは知っています。なんしろ、人間が食えないで死ぬんでございますから、
前へ
次へ
全386ページ中350ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング