面ぁしてやがる、大方、四国猿か、篠熊《ささぐま》の親類筋だろう」
こう言って、悪態をつき、唾を吐いて歩き出したものですから、渡り者の老仲間《ろうちゅうげん》も、これに続きました。
歩きながらも、怒気忿々《どきふんぷん》たる神尾は、繰返して胸の中で、
「江戸っ子も下落したもんだなあ、だが、この恥知らずは、江戸っ子ばかりの罪じゃねえぞ、政治が悪いんだ、まだ、天から矢玉が降って来たわけじゃアなし、西国の又者が攻め込んで来たわけでもなし、天保の飢饉がブリ返して来たというわけでもないのに、もう食物でガツガツしてこのザマだ、一つには江戸っ子の下落、一つには政治向の堕落、江戸の台閣には人間がいねえのかなあ」
六十七
こういう余憤に駆《か》られながら、神尾主膳主従は、昌平橋高札場のところまで来て見ると、橋のたもとから引廻し蕎麦《そば》に至るまで、また、人だかり、人騒ぎが穏かでありません。
今度は、広小路の時のように一列は作らないが、無数の人がかたまって、押し合い、へし合い、後なるは前なるを引戻し、横から来るのは突きのけ押し倒し、襟髪を引っぱるもの、足もとをさらおうとする者
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