あの通り行列がつづきます」
「ここのどんどん焼はそれほど名物なのか、特別に旨《うま》いのか」
「いいえ、べつだん旨いというわけでもございませんし、近頃の新店《しんみせ》で、べつだん名物というわけでもございませんが、変な風説が起りまして、近ごろは、ああやって飲食の前へ人立ちをするのが流行《はや》り出しました」
「変な風説というのは、いったい何だ」
「なあに、つかまえどころがあるわけではございませんが、つまり、関東と、関西と、近いうちに大合戦がはじまる、いつ、薩摩や長州が、江戸へ攻め込んで来ないものでもない、そう致しますと、食糧がひっぱくになる、軍の方の兵糧には困りませんが、一般市民が食うに困る、米も出廻らなくなるし、麦も来なくなる、そういうわけで、どんどん焼が急に売れ出すようになりました」
「ふーむ」
と神尾主膳は、まだその行列をながめて突立っている。
 神尾が動かないから、渡り者の老仲間も動くわけにはゆかない。テレきってお傍についていたが、やがて、
「一つ買って参りましょうか」
「馬鹿!」
と、眼の玉の飛び出すほど、渡り者の老仲間が叱り飛ばされました。
 渡り者の老仲間は、せっかく親切
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