い限り、ここにおいでになってはいかがでございますか」
「それはまことに御念の入った御親切です、拙者のような浮浪人に、いつまでもここにおれとおっしゃるのですか」
「あなたの方でおさしつかえのない限り」
「夢ではないでしょうかなあ、こんな静かなところに、しばしなりとも、このうらぶれの身を休ませていただき得れば、夢にもまさる幸福なんですが、それで、あなたは後悔をなさるようなことはございませんか」
「懺悔《ざんげ》をしきった者には、後悔はないはずでございます、どうかお心置なく」
「はてな」
「何を考えていらっしゃいます、あなたは、夜具が一組しかないところへ居候《いそうろう》に来ては気の毒だと、そんなことを考えていらっしゃるのでしょう、それは御心配御無用よ――ちゃあんと融通の道はありますから」
「でも、危ないですよ」
「何があぶないものですか、あなたこそ、目も見えないくせに、足元があぶないとは、こっちから言って上げたいことなのです」
「では、お言葉に甘えましょうかな」
「そうして下さい、あなたに不自由をおさせ申しは致しません、その代り、わたしの仕事もお手つだいをして下さい」
「拙者の身で叶《かな
前へ
次へ
全386ページ中306ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング