な、世を捨てたとは言い条、文字を弄《もてあそ》ぶようでは、まだ本物ではありませんね」
「おなぶりになってはいけません。本来、わたしは出家する気でこの姿になったのではございませんから、あなたのおっしゃる文字を弄ぶ方が本職で、お勤めは附けたりのようなものなのです」
「そうですか、いや、それはどちらでも拙者の利害にはなりませんよ。いやどうも、御馳走さまになりました、おかげさまで飢えを満たし、雨露をしのぎ、温かな一夜を恵まれ、これで生き返った心持です、この感謝の心の消えないうちに、お暇《いとま》いたしましょう」
「まあ、お待ち下さいませ、左様にお急ぎにならずともよろしいでしょう。そうして、あなたは、これからドチラへお帰りになりますの」
「左様、関の清水か――山科谷へ」
「そこへお帰りにならねばならぬ義理がおありなのですか」
「義理で帰るというわけではないのです、その辺へ落着くより仕方がないじゃありませんか、いまさら壬生《みぶ》へは行けないし、そうかといって十津川入りもできまいから」
「帰らなければならない義理がおありにならないならば、そうして、ドコにおいでになっても、お宅で皆様が御心配にならな
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