めんと、書棚に立った時から、この若々しい老尼の頭に魔がさしました。
 というのは、参考書として、仏典の字引を求めて来るつもりのを、ついして、机の上に持ち来たしたところを見ると「古今著聞集《ここんちょもんじゅう》」。
 しかも、手に当った丁附《ちょうづけ》のかえしが巻の第八とありましたことから起ったのです。
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「ある人、大原の辺《ほとり》を見ありきけるに心にくき庵ありけり、立入つて見れば、あるじとおぼしき尼ただ独《ひと》りあり、すまひよりはじめて事におきて優にはづかしきけしきたり、しかるべきさきの世のちぎりやありけん、又此人をたぶらかさんとて魔や心に入りかはりけん、いかにもこのあるじを見すぐして立ちかへるべき心地せざりければ……」
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 これから平家物語が、著聞集に乗換えられてしまったのは、魔の為《な》すことというよりほかはありますまい。かくて心が乱れそめて、
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「ちかくよりてあひしらふに、この人思はずげに想ひて、ひきしのぶを、しひて取りとどめてけり、あさましう心うげに思ひたるさま、いとことわりなり、何とすとも只今は人もな
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