んりき」に傍点]の百や、米友のあとを受けて、夜興行の一芝居を見せるかと思えば、何の、岩倉村はホンの素通り。
 一見はやめる者のような疲れで、身を杖に持たせてホッと息をきってみたが、未練気もなく思いきって、すっくすっくと歩み出し、八瀬《やせ》大原《おおはら》の奥まで、まっしぐらに、或いはふらりふらりと侵入して行くもののようであります。
 今晩はドチラへ、はい、大原の寂光院《じゃっこういん》に美しい尼さんがいると聞いたから、それを訪ねてみたいのです。そうか、その美しい尼さんがいたらどうする、いなかったらどうする、どうもこうもありはしない、ただ六道輪廻《ろくどうりんね》の道筋をたずねてみたいばっかりだ、と答えれば、まず上出来の方である。
 ともかくも、こうして、あっけなく岩倉村を素通りした机竜之助は、敦賀街道を北に向って進み行くと、行手の山の峡《かい》から、人が一個出て来ました。万籟《ばんらい》静まり返った比叡と鞍馬の山ふところ、いずこからともなく、人が一個出て来た、その物音で、足をとどめてその気配に耳を傾けました。眼を以て見るのではない、耳によって見ると、左の方、瓢箪崩れの方の谷からやって
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