よりも穂の多い剣の林の中を、名にし負う新撰組、御陵隊が、屍《しかばね》の山、血の河築くその中を、腥《なまぐさ》い風の上を悠々閑々として、白衣の着流しで、ぶらついていたという噂を、見て来たように話す者もある。それが今晩、またも、岩倉谷に現われたといったからとて、誰も本当にする者もない代り、嘘だという者もない。
前にも言う通り、気の利いたお化けならば、とうに引込むべきはずのところを、かくも性懲《しょうこ》りなくふらつき出すのは、他の好むと好まざるとにかかわらず、白業黒業《びゃくごうこくごう》が三世にわたって糸を引く限り、消さんとしても消ゆるものではあるまい。大久保市蔵が岩倉谷に入ると、事実上、日本の枢軸は震動するのだが、この幽霊がここに姿を現わしたとて、もはや、草間にすだく虫けらも驚かない。
六十
夢遊病者としてもまた、虫けらを驚かすことを好まない。さりとて、岩倉三位をたずねて錦旗の製法を検究しようではなし、賀川肇の生腕をそっと掘り返して食おうというのでもなし。
岩倉三位にも、中御門中納言にも、いっこう用向きのない人、せっかくこの岩倉谷に入って、がんりき[#「が
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