が、直ちにそこへ移せるのじゃ、その上に、昔のようには及びもないが、再び神尾は神尾としての体面が保てる、お前にも苦労はさせないだけの保証があるのだ、異人館の方に未練もあるだろうが、京都での一苦労も古風でたんのうの味はあるに相違ない、同意ならば、善は急げということにしようじゃないか。
 その晩のうちに、二人の腹がきまってしまいました。お絹としては、まだ見ぬ花の都を見飽きるほど見て帰れるし、それは、れっきとした後ろだてがあって、体面が保てて、生活が安定するのだから、ほんとうにこの辺で納まるのが何よりという里心にもなったのでしょう。
 こっちに未練といえば、ずいぶん未練もあるし、異人館の方だって、大味もこれから出て来ない限りもないが、それも、本当を言えば、こんな生活から逃《のが》れて、老後が食って行けるように何かのみいりが欲しいから、引眉毛で出てみたようなもので、そんな仕事をせずとも、安心して暮せるようになりさえすれば、もうこの辺で年貢の納め時、と言ったような満たされた心があるものですから、お絹は一切の未練や、たくらみも、かなぐり捨てて、無条件で神尾に捧げてしまおうというのです。もう、これから
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