たのではござらぬという安心を、先方に与えなければならないほど、神尾の立場は気が引ける。
「その後、お噂《うわさ》を承るのみで、一向に御消息を存ぜぬことでしたが、御無事で何よりめでたい、どちらにお住いでござるか」
安芸守の言うところには温か味がある、それが何かしら神尾を和《やわ》らかにするものがありました。この安芸守は年配に於て、十も主膳の先輩ではあるが、旗本としての門地は、今は知らないが、以前は遥かに神尾より下でした。今の神尾としては、誰ひとり振向くものもなし、振向くものの面《かお》は冷たいと思って、僻《ひが》むところを、こういうふうに温かに取扱われると、悪い気持はしない。まして、たった今、覚王院や竜王院で、お取計らいを食って出て来たその余勢ですから、神尾もここで、故旧になぐさめられるような温かな味、近来受けたことのないものを受けました。
「いや、ドコにいると名乗るほどの安定はない、刑余の亡命者でござるがな、今日は、どういうものか、虫の居所が少し違っていると見えて、じゃんじゃんの鐘を聞くと、急に上野の地が恋しくなったようなわけで、山へ登ってみましたよ。とりあえず、竜王院と覚王院をたず
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