珍客としてもてなされる気色さえあったものですから、神尾も、こうなければならないと、昔の自尊をいささか取戻したらしい。それも、一つは安芸守自身が居合わせて、取次から、珍しくも神尾の名のりを聞いたものですから、それでこの良会があったもので、さもなくば、やはり玄関子の取計らいを蒙《こうむ》ったに違いないと思われる。
今の神尾は、人に訪ねられる身分でなく、ましてや人を訪ぬる身でない。悪友以外にまじめに訪問を試みたということは、甲府勤番の役向を別としては、何年にも絶無のことでありました。
それでも覚王院に於ても、竜王院に於ても、あえて癇癪《かんしゃく》を破裂させなかったというものは、本来、今日は私心あっての訪問ではない、いささか誠意あっての義勇心(?)といったものから出でたのですから、私の侮辱に平然として屈せぬ面の皮がありました。
役の出先、裃《かみしも》をつけたままで鈴木安芸守が、神尾主膳に対面して、
「これはこれは神尾主膳殿、珍しいことではござらぬか」
「いや、津の国の、何を申すもお恥かしい次第だが、今日、かくの通りにぶしつけに推参いたしたのは」
先以《まずもっ》て、財物の無心に参っ
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