ましょう」
「そうあそばしませ」
 駒井はお松を伴うて、椰子の林の木蔭を、新館への帰途につきました。
 その時に、お松は、なんとも精一杯に自分の胸が躍動するような心持になりました。
 この主人を、送り迎えに立ったことはこれまで幾度、室を共にし、事を共にし、職務以外には何の雑念もなかった身が、今宵は躍《おど》る心が怪しくも狂います。
 お松としては、今までにほとんど感じたところのないほどの、強い充実味にぐんぐんと引きしめられる。ただ何とはなしに生甲斐《いきがい》があるというような心持、女としての充実した喜びが海の潮のように迫るを感ぜずにはいられません。今までは、いつも神妙に、後ろに従って主従の謙遜を忘れなかった身が、今晩はぐんぐん押しきって、この人と並んで語りたい、押並んで歩きながら、思う存分に話したい、という気分に満ち溢《あふ》れていました。
 駒井甚三郎もまた、踏む足がおだやかではありません。思いなしか、その白い頬の色が、木《こ》の間《ま》の月に輝いて、この人としては滅多に見ることのできない血の気を湧かせているやに見えないこともありません。お松の思い上った、不遜に近い歩みぶりを、決し
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