て不快なりとはしていないようです。
かくて、二人は椰子の木蔭を、かの新館なりと覚ゆる方面に向って、無言で歩きました。それは主従相伴うて歩むのでなく、二個の人間が相携えて行くもののようです。
椰子の林をわけて行くといっても、それは熟地に見るような簡単なものではないのです。蛮地ではないけれども、多年の無人島ですから、たとえ隣から隣へ行くにしても、道というものはないところなのです。そこへ、心あたりだけの道をつけて進むというよりほかに、進む道はないのです。自分たちの住む新館は、たしかあちらの方と、漫然とした道方角を選んで歩いても、それがそのままに通り抜けられるかどうかはわかりません。
で、二人は、方向の目的はきまっているが、その径路のことは忘れているようでありました。
無言で、ずんずん歩み行くこと、そのことだけに気が張りきって、到着の時と、ところと、そんなことは忘れてしまったのではないか。
二十八
「お松さん、わたしはここで、一つ、あなたを驚かすことを言ってみたい」
と、ある地点へ来て、駒井は足をとどめて、椰子の大木の一つに身を釘附けにしたようによりかかって、こう
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