しても、こう暗くてはやむを得ない、明るいものにしてから、一応、説諭納得せしめて、店の者に引渡すが手順だと思いまして、
「おーい」
そこで、さいぜん雛妓《こども》たちに向って打合わせて置いた通りの合図をしました。しかし、この合図の「おーい」にしてからが、性急な調子で言っては雛妓たちを八重に驚かす憂いがあるから、つとめて間延びのした声で「おーい」と言いましたから、その声に安心して、待ってましたとばかり、雛妓隊が手に手に雪洞《ぼんぼり》の用意をしたのを先頭に立てて、廊下づたいにやって来ました。
「おじさん、怖《こわ》い者いた?」
「お化けいた?」
「村正で退治た?」
「やっつけた?」
口々に囀《さえず》って来るのを、
「なんでもない、お客様がいらしったのだよ、怖くないから早くおいで、おいで」
招き寄せて、その先頭の掲げていた雪洞を自分の手に受取って、そうして、御簾の間の部屋の中に差し入れて見ました。
二十四
雪洞を入れて見ると、広くもあらぬ御簾の間の隅々までぼうと明るくなる。
見れば、座敷の真中に一人の男が仰向きに爛酔《らんすい》して寝ていること、音で聞いて想
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