やして、首尾よく仰せつけ通りの胆吹の山寨《さんさい》へかけつけやして、例の青嵐の親分にお手紙のところをお手渡し申しますてえと、そこへもはや[#「もはや」に傍点]一揆が取詰めて来ようという形勢で、このままに捨てて置けば、この山寨は残らず占領の、家財雑具は挙げてそっくり盗賊のために掠奪てなことになりますから、さすがの胆吹御殿のつわもの[#「つわもの」に傍点]共も顔色はございません、ところが、青嵐の親分とくるてえと、さすが親分は違ったもので、ちっとも騒がず、計略を以て一揆の大勢を物の見事に退却させてしまいました、全く軍師の仕事でげす、わが朝では楠木、唐《から》では諸葛孔明《しょかつこうめい》というところでござんしょう」
手紙をひろげて立読みをしながら、がんりき[#「がんりき」に傍点]の言葉を等分に耳に入れている不破の関守氏は、
「御大相なことを言うなよ。だが、百姓一揆の颱風《たいふう》は、胆吹御殿をそれてどっちの方へ行った」
「まあ、お聞きなせえ、一揆の大勢がいよいよ胆吹御殿をめがけて、一揉《ひとも》みと取りつめて参りますその容易ならざる気配を見て取ったものでげすから、このがんりき[#「が
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