。今のあの小男を見たか、あれは人徳を持っているから、犬もおのずから懐《なつ》いて、一見旧知の如く、彼が走れば犬も走る、貴様は臭いをかいだだけで吠えられる、つまり、人格の問題だよ、人徳の致すところだから是非もない、ちと見習い給え」
「冗談《じょうだん》じゃございませんよ、犬に嫌われたからって、人徳がどうのこうのと言われちゃあ埋《う》まらねえ、がんちゃん[#「がんちゃん」に傍点]儀は犬には嫌われますが、年増《としま》や新造《しんぞ》には、ぜっぴ、がんちゃん[#「がんちゃん」に傍点]でなけりゃならねえてのが、たんとございますのさ」
「馬鹿野郎――それ、涎《よだれ》を拭いて。その手紙を濡《ぬ》らしちゃいかん」
かくして不破の関守氏は、がんりき[#「がんりき」に傍点]の百蔵の手から一通の手紙を受取って封を切り、それを読み読み住居の方へ歩いて参りますと、がんりき[#「がんりき」に傍点]の百も、笠を取り、ござを外《はず》して、それについて来る。
「なんにしても、どちらを向いても百姓一揆《ひゃくしょういっき》てんで、たいした騒ぎでござんしたよ、その中をいいかげん胡麻《ごま》をすってトッパヒヤロをきめ
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