、お会いになりましたか」
「会いました」
「それは功徳をなさいました、本来ならば、子が親を見つがなければならないのに、あなた様ばかりは、親御にそむいた罪が重いにかかわらず、それでも、親は子を思いきれないで、わざわざこの上方まで見においでになる、それなのに、会うの会わぬのとおっしゃる、あなた様の御了見が間違っておりましたが、これは今更申し上げたとて甲斐のないことでございます、ともかくも、首尾よく御会見になりましたとやら、それはそれは何よりの悦《よろこ》びでござります」
「いいえ、別に、嬉しくも、おかしくもありませんでした、でも、会って悪いことをしたとは思いませんでした」
「そのはずでございます、子が親に会うのが何で悪いことでしょう、お父上様のおよろこびが察せられます。して、久しぶりで親子御対面のお談話《はなし》の模様はいかがでござりました」
「別に細かい話はありません、引合わせる人たちが立会の上で、大谷風呂の一間で会見を終りました、万事は不破の関守殿や、あのお角さんという仕事師が心得ているはずなのです、わたくしはただ大体だけの受答《うけこたえ》をしましたが、それでも、父は満足して別れまし
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